賃借人が入居している不動産を購入した場合、敷金などの権利義務はどのようになりますか
この場合、敷金は新しい不動産所有者に引き継がれるので、新所有者が敷金を返還しなければなりません。
回答者:弁護士 大澤 一郎
賃貸人の地位は新賃貸人に承継される
不動産投資を行う場合などには、既に賃貸人が入居している物件を購入することが多いですが、こういったケースでは、敷金などの権利義務がどのような取扱になるのかが問題です。
賃貸借契約は、新しい賃貸人に引き継がれるのか、それとも以前の賃貸人に残ったままになるのでしょうか?
この問題については、判例が確立されています。最高裁の昭和33年9月18日における判例では、賃借人が物件の引き渡しを受けているなど対抗要件が備わっている場合の賃貸借において、売買が行われたら、新しい所有者は物件の取得とともに当然に賃貸人としての地位を承継する、と判断されています。そこで、賃借人が入居中の不動産を購入すると、自分が賃貸人となって、賃借人から賃料を受けとることができます。また、賃貸人には不動産を使用に耐える状態にすべき修繕義務があるので、物件が傷んでいたら、自分の負担で補修などをしなければなりません。
敷金返還義務も新賃貸人に承継される
それでは、自分が新しい賃貸人になったとき、敷金はどのように取り扱われるのでしょうか?敷金は、以前の所有者に対して支払われているものなので、これを自分が引き継ぐのかが問題です。
この点について、敷金返還債務も、賃貸人の地位と同様に新所有者に引き継がれると考えられています。そこで、賃貸借契約が終了するとき、新所有者は賃借人に対し、原状回復費用などの未払い金を差し引いた残金を返還しなければなりません。このとき、新所有者が「以前の所有者から敷金の引継ぎを受けていない」と言っても、賃借人に対抗することはできません。
賃借人が入居している物件を購入するときには、前の所有者から敷金の引継ぎを受けておく必要があります。通常は、不動産の売買代金から敷金の金額を差し引くことによって精算をします。
賃貸物件を購入するときには、必ずどのような入居者が賃借しているのかと、それぞれの賃借人からいくらの敷金を入れてもらっているのかをチェックする必要があります。
礼金や保証金などはどうなるの?
不動産の賃貸借契約をするとき、礼金や保証金を預かることがあります。
まず保証金の中でも、賃借人に返還すべき部分については、敷金と同様、新しい賃貸人が返還の負担を負います。これに対し、礼金や、保証金の中で返還しなくて良い部分については、賃借人に対する返還は不要ですが、以前の所有者の収益となります。新所有者は、前所有者に支払いや引継ぎを求めることができません。
このように、賃貸物件の購入の際には、いろいろと複雑な問題があります。わからないことがあったら弁護士に相談しましょう。