夫が賃借人となっていた場合、離婚後、元妻だけが当該住居に引き続き居住できますか
基本的に住み続けることができますが、賃貸人との間で契約名義の変更もしくは再契約をする必要があります。
回答者:弁護士 大澤 一郎
契約者と入居者が異なる場合、契約の解除原因となる
夫婦やファミリーで賃貸物件を借りるときには、建物の契約名義人が父親や夫になっていることが多いです。このとき、離婚をして元妻が引き続き家に居住したい場合、契約名義人と実際に居住する人が異なる状態になってしまいます。
賃貸借契約で、契約者と入居者が異なる状態になることは認められるのでしょうか?
このようなことは、基本的には認められません。
賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の強い信頼関係に支えられた契約であると考えられています。ところが、契約者以外のものが勝手に物件を利用すると、大家との信頼関係が破壊されてしまいます。そこで、賃貸借契約においては、転貸借や賃借権の譲渡が禁じられており、大家に無断で転貸や譲渡をすると、大家は賃貸借契約を解除できることとされています。
離婚の場合、相手との信頼関係が破壊されない
離婚したときには、契約者ではない元妻が物件に入居するのですから、転貸や賃借権の譲渡と似た状態になってしまます。すると、賃貸借契約では無断転貸や賃借権の譲渡が禁じられることから、大家は元妻に対し、賃貸借契約の解除を主張して出ていってもらうことができそうにも思えます。
しかし、賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の信頼関係を基礎とする契約なので、信頼関係を破壊するような事情がない場合には、賃貸人から解除することが認められないと考えられています。転貸や賃借権譲渡のケースでは、大家が見たこともないような第三者が入居していたらもちろん解除の原因になりますが、離婚前から居住していた妻が引き続いて居住しており、賃料の滞納などもないケースでは、解除原因はないと考えるべきです。
そこで、離婚後に元妻が物件に引き続いて居住していても、大家側は解除することは基本的に認められません。
具体的な対処方法
そうだとすると、離婚後妻が物件を使用する場合、何もせずにそのまま貸していても良いのでしょうか?
この場合、契約書の作成をやり直す必要があります。
相続の場合であれば、法律上当然に賃借人の地位が相続人に承継されることが法律上明らかなので、契約書を作り直す必要はありませんが、離婚の場合、そういった規定がないため、契約上の名義人と実際の入居者が異なる状態は、現状を正しく表示していないことになるためです。
そこで、契約名義を妻に書き換えるか、再契約をするかのどちらかの対処をとりましょう。
このように、賃貸借契約は、賃借人の離婚によっても影響を受けます。大家として適切な対処方法がわからない場合には、弁護士に相談しましょう。